NHKドラマ大奥を読み解く②     ~家と才能~

 こんにちは。Nurture&Matureの飯沼美絵です。
音信不通になってしまい、すみませんでした。
1月からありがたいことに、研修やらイベントの準備実施やらで奔走しておりました。
体調を崩す人が多い中、無事に仕事をやらせてもらっているのが本当にありがたいことです。

さてそしていよいよ私は26年勤めた会社をすぱっと辞めました。
そして、東京都大田区のとある一般社団法人で働きながら、個人事業主として続けて参ります。
大田区の活動はまたそのうち書かせてもらいますね。

で、約束していた大奥の後半ですよ。
やっぱり約束した以上は書かないと。ってだいぶ旬がすぎてしまったかもしれませんが、
逆に、旬がすぎてもこのドラマ本当に素晴らしいものだったのでぜひ宣伝したいです。

後半は、吉宗(冨永愛)の時代からスタート、いよいよ力がぶつかる時代ではなく、「力の交流」が成される時代の到来です。
質素倹約、の吉宗の時代にもかかわらず、彼女の長身を活かした黒の打ち掛けの着こなし、凄くかっこよかったですね。
マントにも見えるような、ヒーロー感が半端なかった。

吉綱の時代では、たくさんの強い思いがあったにも関わらず、どうにもうまく通い合わず、望まない激突がたくさんありました。
ここでは、吉宗が「スパッ」と気持ちよく答えを出すことが多いため、世の中のありようも、人同士の交流も、どこか「スパッ」と流れる感じがありました。
前時代のきらびやかさや飾り物重視ではなく、実力と本質を追求し、道理を通すことをよしとしようとすることが主流派のように映し出していました。
だけどそんな吉宗の価値観を、周りを取り巻く男子達は見事にバランスを取っていましたね。
例えば、大奥荘取締役の藤波。
「裏表無いことだけがいいことじゃない、確かに(大奥の男は)種馬だけどそうみえないように彩ってきたのが大奥だ」とか、
最後旦那さん役となった杉下も、ずっと吉宗を支えてきました。
前シリーズまでは“男はただの種付けだけ”という社会的役割であったのが、杉下が「種なし」でありながら吉宗に重用されたことも重要な要素です。

他にも、部下である加納利通(貫地谷しほり)との名パートナーぶりも見ていてスカッとしました。
吉綱の時代の、抑圧された主君への執着がだいぶ浄化されたように見えます。

ですがここでも大事なのは、加納は実はお勤め最後の日に、吉宗を将軍にしようと周囲のライバルをどんどん殺していたことを告白します。
力が通り、正しいと思うことのために自分の力を示すことができるようになった時代である象徴のような出来事。
しかし、ここでもやっぱり人を殺さなくてはならない己の運命の悲しさは残ります。
最後、本当に見事でしたね。
加納は吉宗に「どうぞ、お手討ちに」と言うのですが、吉宗は泣きながら、「さぞここまで一人で抱えて辛かっただろう」と言うのです。
「人を殺める」という力に頼らねば、まだ、自分達の望む未来を創ることができないことへの嘆きが交され、トップでさえもまだあらがえない様子がよく表されていました。

もう一つ、実用的か効果的かを追求する吉宗にとって、容易に答えをだせなかったのが、後継者の問題。
嫡子の家重(三浦透子)は生まれつき言葉がうまく話せません。
そのため吉宗は彼女の将来性に自信が持てず、何度か別の者を後継者にしようかと考えます。
しかし、この最後の吉宗自身の成長を描いたシーンが見事でした。
周囲の人達に「情を示す」ということが重要なことだと教えられた彼女は、最後にしっかりと家重を抱きしめ、家督を譲ることにします。
家重は、「役に立つかどうか」を重要視している親からのプレッシャーは相当であったでしょう。

吉宗は、最晩年に、子供時代の田沼意次に出会います。
ここでは、吉綱(仲里依紗)が子供の吉宗に会ってその聡明さに驚きと嬉しさを感じたように、今度は年老いた吉宗が田沼の聡明さに驚き、自分の遺志を彼女に託していきます。
そして、ここでも伏線が。
春日局が死の床で言った「この世は滅びる」ではなく、吉宗が最後に言ったのは「この世は滅びぬ」。
たくさんの才能に後を託し、彼女は世を去りました。

 さて、パート4は家治・家斉の時代。ここは「人を生かす(活かす)」ことがテーマの時代。
自分の生まれが例え社会的に望まれたものでなくても、自分の才能や情熱を生きる糧にして人と「感謝」というエネルギーを通い合わせる、そういうことを実現する人が描かれていました。
オランダ人とのハーフ、
同性愛者、
家の価値観にうまくはまれない者たち、
こういう人達が人の“困ったこと”に手を差出し合い、生かしあう様子が描かれていました。

興味深いのは、大奥前半の最初のテーマ、「家を出なければならなかった人達」のテーマがリスタートしています。
しかし時代が安定し、長崎からも最先端のモノや学問が入ってきたお陰で、以前ほど狭い世界ではないようです。
その分大奥もいろいろな役職が登場し、複雑性を増しているようにも見えました。

そして丁度この時代は、 1700年代前半から後半へ、江戸時代の折り返し地点。
この頃になると、徳川は宗家だけではなくて、御三家・御三卿のシステムがあったので、地方でも相当な力を誇っていたのではないでしょうか。
むしろ田舎の方が堂々と悪いことしやすいかもしれませんね、今の地方政治家みたいに・・・・
パート4、いや総シリーズ全てのラスボスとも言うべき人物が現れます。

一橋治済、仲間由紀恵の震え上がる演技が見物でした。

これまでの悪人たちの斜め上すぎる人物、サイコパス。
人が苦しむのを見るのが楽しい、という絶対悪が登場します。
これまでの人物のように背景が描かれるわけでもなく、突如として現れた破壊者、吉宗の孫。
物語の表で、出自が複雑そうな人々が大奥に集まり、何とか蘭学を修得して「赤面」という人を殺す最大の敵を撲滅しようと奮闘している裏で、この破壊者は静かに狡猾に、自分が一番楽しめる地位を確保するために少しずつ、いろんなことを潰していきます。
赤面が派手に多くの人を殺しまくるのに比べ、彼女はサイレントキラー。

 この対比の描き方が、パート4は見事でした。
仲間由紀恵(治済はるさだ)の登場の仕方は、最初とても静かだったのです。
そして興味深いのがもう一点、いつも吉宗と同じような、黒の打ち掛け。
ところが、彼女が登場するシーンは最初から、小さい音量でありながらも、低い不穏な音楽が使われていました。

今回全てのシリーズを通じて、“黒”という色は様々な意味を持ちました。
吉宗の凜とした意志の黒、治済の邪悪の黒、大奥の水野が着ていた流水門の“流れる”黒、赤面(あかづら)撲滅のリーダーを果たした“黒木”の黒、そして最後に忘れてならないのは“黒船”の黒。
全てにおいてパワーを描いていますが、それぞれの時代でもたらされたパワーの役割が様々でした。
パワーとは、何でしょうね?
この時代の、現代にも通ずるパワーへのメッセージを通じて、改めて、パワーとは何か。
次回ブログにかきたいと思います。

で、話が戻りますがこの時代の、治済の黒。
ダースベーダーも真っ青。
しかし彼女が登場したおかげで、男達が覚醒する、という展開になりました。

その前にきっちりここに書いておきたいのは、治済がまだサイレントだったパート4の前半の皆さんの活躍です。
自分の才能を活かす場を求め、生きることができるようになった傍らで、まだ表向きには血筋、家柄が支配する世の中でした。
“あいのこ”と言われ生きることに苦しさを感じていたオランダ人とのハーフ青沼は、長崎を出て江戸の大奥で生きることになります。
また、平賀源内もここでは女性ですが、平賀源内を象徴した“竹とんぼ”が飛んで行くシーンが何度も登場します。
やっぱりここでも彼女が作ったというものすごく良く飛ぶ竹とんぼは人気がなく、自分の拾える範囲で遊べる竹とんぼのほうが人気、というのはこれもまた時代のメッセージだと思うんですね。

 飛んだら出て行きっぱなしの人間よりも、自分の“家”に帰ってくる方が大事。
しかし最初にもお伝えしたとおり、彼らは彼らの尊厳を大事にする方法として「家を出なければならなかった人達」なのです。
家を絶えさせないことを大事にしつつも、そうすることで、自分の子供達(竹とんぼというおもちゃ)が家に帰ってこなくなる、という矛盾を抱えた時代でした。
しかし出て行った側とすれば、日本全国の問題と思われる赤面撲滅という大きな崇高な難題に向かうことは、帰って彼らをイキイキとさせました。

そして物語は、やっぱりまた、権力に戻っていきます。
まるで面白いショーをする身分の低い人間達を、しばらくやらせて泳がせてやった、と言わんばかりに、絶妙なタイミングで全てを破壊しにやってきます。
例の治済卿。
どうしたらもっと自分の意のままに面白いことができるかなー、ということを、狡猾に確実に実行したのでした。
丁度、彼らの活動が功を奏し、ワクチン接種をすることで赤面を予防する、ということが実際本物なのだ、ということがわかってきたところで、ワクチン接種による死者がでました。
しかもこれまたドンピシャに治済の都合の良いことに、治済の従姉妹であるライバルの白河様(安達祐実)の甥の死。
身分が高いだけに大騒ぎになる上に、治済にとっては世継ぎの候補が死んでくれたので、一石何鳥?
ついでに調子に乗ってる田沼意次(松下奈緒)も責任取らせちゃお☆ という頭の良さ。
自分の息子にはちゃっかり事前にワクチンを打っておくような、使えるモノを見定める目があることが、ただ欲に溺れているだけの悪人とは違います。

結果、青沼、源内は殺され、田沼や黒木やその他の人々は江戸城から一掃されました。

さて、一方で将軍様は何をしていたかというと、例の家重の娘の家治は、ここでも治済によって毒を盛られ続けて弱って死んでしまいました。
あまり家治は登場しませんでしたが、ここでもちゃんと見ておくべきことがあります。
家治は田沼を重用して、蘭学を江戸城内で学ぶことを承認していました。つまり家重は蘭学とそれらを学ぶ人達に将来を期待していたのです。
ところが、自分が陰謀で毒を盛られていたことを知ると、可愛がっていた者たちに裏切られた、つまり「おまえらの力が足りないから私は死ぬんだ!」という、将軍自身が人の悪意に絡め取られて、蘭学が屈してしまう、というような終わり方をしました。

 全て死んでしまったかのように見えた矢先、生き残った黒木が彷徨します。
激しい雨、という騒がしいシーンで、膝を折って、
「懸命に歩んできた者に、この仕打ちか!あまりにも理不尽ではないか!」

後々この叫びは、治済の息子が次の将軍になったあとに再度覚醒します。
治済は若い将軍を殺し、ライバルの白河側の若手も殺し、着実に自分の息子である家斉を将軍にします。
自分は面倒な将軍にならず、息子にやらせて母として実験を握ります。
息子はいずれ、自分の母がしてきた全てのことを知ります。
そこで、ようやく、黒木を探し尋ね、「赤面の撲滅に取り組みたい」と願い出、ここから男達が活躍する時代が到来します。

今回のブログはここら辺までにします。
黒の色にとても意味があるドラマだと書きました。
大奥とは、黒=力の使い方を200年かけて学んでいく話なんだと思います。

無事にワクチン接種が国の事業として公に認められ、黒木がその頭になる、というのは平賀源内が亡くなる直前に見通した未来でした。
本当にそれがかなったあとに、また、例の竹とんぼが大空に飛んでいくシーンが出ていましたね。
竹とんぼ自体は人が作った、子供用のおもちゃです。
子供が家で元気に健やかに育ってほしい、と願うのは時代、国問わない親たちの願いです。
はじめて子供に竹とんぼを作った人は、そういう願いを込めたのでしょう。
ところが子供達が死んでいく病は、実際の身体の病気だけではなくて、心が死んでいく病を人間自身が作ってしまうもの、というメッセージのように受け取りました。
願いと、行動が裏腹になってしまう、この先の江戸はどうなっていくでしょうか?
この後更に羽ばたく人達が登場します、お楽しみに。

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